853 名前:なまら ◆/NaMaRAd8lCn
統合失調症 幻聴の不安、切迫して訴える女性(前編)

 「『自分のことしか考えないやつだ』って。幻聴がするんです」「私のことをうわさしているみたい。『ばか、死ね』って」

 30歳代の女性が、急せき立てられるように訴えた。話すそばからよだれがあふれ、ハンカチで口角をおさえ
笑顔が似つかわしいはずの、くっきりとした目鼻立ちなのだが、眉間に深く刻まれたしわが、焦燥に駆られる日々のあり様を明示していた。

通院していた精神科クリニックから入院を勧められて、紹介状を持ってこちらの病院を受診した。「統合失調症」と診断され、これまで10年以上にもわたって、精神科病院に入退院を繰り返してきたのだという。
 「後ろに霊がいる感じです」「頭がボーッとしていると、『あれだ、あれを考えろ』って幻聴が言ってくる」
「電話の受話器を取ろうとしたら、やらされている感じがして」
「外に出たらキモいって言われる」
「妄想気分」は、絵画「ムンクの『叫び』」に表現されている不気味さに通底し、もはや想像の域を超える。いずれも、統合失調症に特徴的な症状だ。

女性に改めて問い直すと、“霊”は実際には見えず、気配だけを感じるというし、“幻聴”は耳から聞こえてくる本来の声とは違うと理解できていた。
“幻聴”の内容も、宇宙や神、電磁波兵器組織など、日常から超越した“何者か”が暗躍するような、統合失調症を彷彿させる突拍子もないもの
紹介状の処方欄には計13種類が処方されていた。1日分の量だ。

これだけの大量処方にもかかわらず症状が悪化したということは、裏返せば、薬が効いていないということにほかならない。
大量処方のため、意識が動揺し注意や判断も鈍り、意欲がそがれ、かえって統合失調症のように見て取れてしまうことも珍しくない
ひとまず、大量処方による“目くらまし”を取り払う上にも「不安」を主体とした状態ではないか、という印象を胸中に納め、はぐらかした

 「声が聞こえてきても、聞き流しましょう」「構わない相手にしないように」
幼児をあやすようになだめた
「なくそうとじたばたしても、迷いが深まるばかりです。諦めて、嵐が過ぎるのをただ待ちましょう」
待つことそのものが治療であると、繰り返し伝えた