「セイラ、これを受け取ってくれ」

そう言って司から手渡されたのは小さい箱。
まさかとは思うが中身を問う。

「あの、これは何かしら?」
「バレンタイン、というのだろう。親しいものにチョコレートを渡す日だと聞いた。幸いにも菓子作りには腕に覚えがあってな」
「…はあ」
「む、何か間違っただろうか。それとも君のことだから既に大量に貰っていて邪魔になるとかか」
「いーえ。まあ、そういう日だと思うわよ」

そうか、と頷きながら司は一人納得する。

「で、食べて良いの?」
「無論だ。手作りだから日持ちもしないので早めに食べてほしい」
「じゃあ早速いただいちゃおうかしらー、っと」

包装の中には、既製品と見間違う程に精巧なトリュフが幾つか入っていた。
一つ頬張れば口の中にくどくない甘さとほろ苦さが広がる、一級の出来だ。

「…敵わないなあ」

色んな意味合いでぼやいた言葉。
落ちた視線はこっそり持ってきた自分のチョコに向けられる。

「…君も作ったのか?」
「へ?ま、まあ一応ね。ツカサの程じゃないけれど」
「くれないか?私は君のチョコが食べてみたい」

やっぱり敵わない。と思いながらもはにかんでチョコレートを手渡した。