「開戦以来、現代民衆の心情ほど解し難きは無し。多年生活せし職業を奪はれ
徴集せらるるもさして悲しまず。空襲近しと言はれても亦さらに驚き騒がず。
何事の起こり来るも唯なりゆきに任せて寸毫の感激をも催すこと無きが如し。
彼らは唯電車の乗り降りに必死となりて先を争ふのみ。これ現代一般の世相なるべく全く不可解の状態。」

永井荷風     日記 昭和19年3月24日