八重子に

はっきり言う。
俺はお前を愛している。
しかし、俺の心の中には、今では
お前よりもたいせつなものを蔵するようになった。
それは、お前のように優しい乙女の住む国のことである。
俺は昨日、静かな黄昏の田畑の中で、 まだ顔もよく見えない遠くから、俺達に頭を下げてくれた子供達のいじらしさに強く胸を打たれたのである。
もし、それがお前に対する愛よりも
遙かに強いものというなら、 お前は怒るだろうか。
否、俺の心を理解してくれるのだろう。
ほんとうにあのような可愛い子供等のためなら、生命も決して惜しくはない。
自我の強い俺のような男には、信仰というものは持てない。
だから、このような感動を行為の源泉として持ち続けていかねば生きていけないことも、お前は解ってくれるだろう。
俺の心にあるこの宝を持って俺は死にたい。
俺は確信する。
俺達にとって、死は疑いもなく確実な身近の事実である。

宅島徳光 二〇年四月九日殉職
享年二四歳