明治神宮外苑は、生等が多年武を練り技を競ひ、皇国学徒の志気を発揚し来れる聖域なり。
本日、此の思出多き地に於て、近く入隊の栄を荷ひ、戦線に赴くべき生等のため、斯くも
厳粛盛大なる壮行会を開催せられ、内閣総理大臣閣下、文部大臣閣下よりは懇切なる御訓示を
忝うし、在学生徒代表より熱誠溢るる壮行の辞を恵与せられたるは、誠に無上の光栄にして、
生等の面目、これに過ぐる事なく、衷心感激措く能はざるところなり。思ふに大東亜戦争宣せられてより
是に二星霜、大御稜威の下、皇軍将士の善謀勇戦は、よく宿敵米英の勢力を東亜の天地より
撃攘払拭し、その東亜侵略の拠点は悉く我が手中に帰し、大東亜共栄圏の建設は、此の確固として
磐石の如き基礎の上に着々ととして進捗せり。然れども暴戻飽くなき敵米英は、今やその厖大なる
物資と生産力とを擁し、あらゆる科学力を動員し、我に対して必死の反抗を試み、決戦相次ぐ悽愴なる
戦局の様相は、日を逐うて熾烈の度を加へ、事態愈々重大なるものあり。時なる哉、学徒出陣の
勅令公布せらる。予ねて愛国の衷情を僅かに学園の内外にのみ迸らしめ得たりし生等は、是に優渥なる
聖旨を奉体して、近く勇躍軍務に従うを得るに至れるなり。亦奮起せざらんや。

生等今や見敵必殺の銃剣を提げ、積年忍苦の精進研鑚を挙げて悉くこの光栄ある重任に捧げ、
挺身以て頑敵を撃滅せん。生等もとより生還を帰せず。在学学徒諸兄、亦遠からずして生等に続き
出陣の上は、屍を乗越え乗越え、邁往敢闘、以て大東亜戦争を完遂し、上宸襟を安んじ奉り、
皇国を富岳の寿きに置かざるべからず。斯くの如きは皇国学徒の本願とするところ、生等の断じて
行する信条なり。生等謹んで宣戦の大詔を奉戴し、益々必勝の信念に透徹し、愈々不撓不屈の
闘魂を磨礪し、強靭なる体躯を堅持して決戦場裡に挺身し、誓って皇恩の万一に報い奉り、
必ず各位の御期待に背かざらんとす。決意の一端を開陳し、以て答辞となす。

出陣学徒代表 東京帝国大学文学部学生 江橋 慎四郎