いっときはNATOとして目指した「VTOL攻撃機の分散配置」を英空軍のハリアーは実現した。米海兵隊は、そ
れまでは海軍の空母に間借りするか前進基地を設営しないと使えないスカイホークと異なり、呼べばすぐに
支援に現れるハリアーを高く評価した。航続距離の小ささや武装の貧弱ささえ、至近の揚陸艦から行動する
メリットの前に許容した。艦載機としてのハリアーはアメリカ、スペインがイギリスに先行していたが、英海軍は
空対空レーダーを搭載したシーハリアーを開発、採用し、指揮巡洋艦の枠で建造した全通甲板のいわゆるハ
リアー空母に搭載した。米海兵隊は主翼を複合材に変更するなどしたハリアーIIを採用し、イギリス空軍やイ
タリア海軍、スペイン海軍もこれに続いたが、冷戦末期から21世紀にかけて、空対空戦闘を意識していたの
は機体構造としては旧世代にあたる英海軍のシーハリアーだけで、AMRAAMの運用もシーハリアーが1988
年から行われたのに対し、ハリアーIIは2000年であった。

いずれのユーザも限定された航続力、搭載量、アビオニクスであってもSTOVLであることが必須の任務があっ
ての採用であり、陸上基地から運用する大型の空軍機を代替するものではなかった。ハリアーの運用経験が
無いままF-35Bを採用するのはイタリア空軍のみだが、これも更新対象のイタリア製軽攻撃機AMXはSTOL性
を特徴とした最大離陸重量がハリアーと似た機体であった。

弾道弾の危険性や縦深の短さでは日本の比ではないイスラエルだが、B型もハリアーも採用していない。むし
ろ少数であってもそのほうが国防に資するという判断で大型高性能な戦闘機の調達を目指している。

海自が導入するなら空母保有に関する議論を尽くした先、空自が導入するのであれば「あれば便利」程度では
ない、費用対効果まで突き詰めた空自だけの特殊事情とは何であるかを財務当局に納得させる必要がある。
少なくともNATOで行ったハリアーのような分散配置は、親基地と陸路で連絡できた状態で行われており、これ
を海で島同士が隔てられた沖縄でやることは不可能だからだ。