戦後、半世紀以上も経ったのに、まだアメリカは
こうした描き方をするかと驚かされたのは、名作
『硫黄島からの手紙』(2006年)である。そう
して国内でも、鑑賞者から何の疑問も出されないこ
とにも驚いた。

 それは硫黄島に転属をさせられた元憲兵上等兵の
話だった。彼は上官と内地の民家の中を巡回する話
である。あろうことか、彼は官品の拳銃で、上官の
命令で民家の犬を撃つことになっている。実際は空
に向けて撃ったということになっていたが、拳銃も
実包も「陛下からの預かりもの」である。「監軍護
法」を標榜する憲兵が、そんな無法をしたものだろ
うか。

 ああ、人間らしい心を失わなかった人だったのだ
な、それで戦地の硫黄島に転属させられたのか・・・
というストーリーを観る人に植え付けようとしたの
か、そう考えると暗然たる思いを抱いたのはわたし
だけではなかったと思う。

 実際の拳銃の使用規定はそんなものではなかった
し、官給品の拳銃弾(実包)の管理はひどくやかま
しいものだった。兵器・弾薬の横流しや紛失、使用
目的以外の発砲などの調査は、まさに内地の勅令憲
兵の任務である。民家の犬を殺すなどという越権行
為、官給品の実包の勝手な発射などは大変な事件に
なっただろう。上官の大尉こそ、不当な命令を下し
た罪で取り調べを受けて、軍法会議に起訴されるよ
うなものだ。