なぜロシアは今も「苦難のロシア」であり続けているのか(河東哲夫)
https://news.yahoo.co.jp/articles/abf6e31b9ec839e579850954dbd9f8a9aee73732?page=1
中略
民主主義は混乱を招くだけ

ロシア連邦のエリツィン大統領は、共産主義を排撃し、これからは自由・民主主義と市場経済でやっていくと宣言した。
その結果、何が起きたか。自由とは、「なんでもあり」のことと間違って解釈された。
ソ連時代はなんでも国営化されていたが、それが払い下げ、民営化の対象となる。

役人とのコネを持つ者が早い者勝ちで、いろいろなものを「民営化」、つまり私有化していく。
互いにマフィアを使って邪魔者を「除いて」いく。昼日中でも市中でマフィアが撃ち合い、筆者はその死体が転がる脇を車を運転して大使館に通ったものだ。 つまり当時のロシアでは、民主主義は無秩序の代名詞となったのだ。
自分の自由と権利だけ主張すれば混乱が生ずるが、他人の自由と権利も尊重すれば、そこには自発的に法とルールを守る自律的な社会が現れる。
いつもうまくいくわけではないが、そういうことを自覚し、家庭でも教えられて育ってきた人間が多い社会が近代の市民社会なのである。
こうした思想は17世紀のイギリスの思想家ジョン・ロックなどが唱え、アメリカなどの憲法に明示的に取り入れられている。
しかしロシアにこの伝統は成立しなかった。1990年代、「自由・民主主義」の上っ面だけを取り入れ、大混乱が生じたことで、世論調査は「自由などというたわ言より、秩序維持のほうがよほど大事」という結果を示すようになったのである。