現時点で、ロシア軍は予備戦力を運用しているようにはみえず、この戦力を死傷者の埋め合わせに
使っている可能性、もしくはこの戦力を活用するための突破成功を待っている可能性が高い。
とはいえ、比較的大規模なロシア軍追加戦力が待機していることを示す証拠情報はあまりない。

私が懐疑的になりつつあるのは、さらなる「春季攻勢」が次第に迫りつつあるという見方だ。
この種の作戦を実施するためには、ロシア軍は事前に動員第二波を行わねばならなくなる可能性が高いが、
今のところそれは起きていない。1月中旬に50万人が動員されるだろうという予測は間違っていた。

米国とNATOの軍高官はここ数日、そろって同じような発言を多く発し始めている。ドンバス奪取を企図した
ロシア軍攻勢が少し前に始まったことと、戦力状態を考えるとその進捗は想定通りであるというのが、
比較的一致した見解だ。

モスクワは動員第二派を進める前に、現在の攻勢の成果を見極めようとするだろうというのが、
私の予測のなかで最も堅実な見方だ。何もかもを低くみるつもりはないが、ロシア軍の攻勢は現状、
そのほとんどがわずかに漸進的な戦果をあげているようにしかみえず、それも装備と弾薬を浪費しての結果だ。

一つの可能性として考えられるのは、ウクライナが春に攻勢を開始したのち、ロシアが後日新たな
作戦を試みるために、この夏の動員という選択肢をとるというものだ。
ウクライナが今やマンパワー面での優位性を享受できなくなっていることを踏まえると、
ウクライナのマンパワーをすり減らしていくことが、2023年のロシアの戦略だという可能性はある。

ロシア軍は現在、この攻勢のために砲弾を消費し続けているが、春には砲弾不足で困ることになるだろう。
今後の数カ月間で、ロシアの弾薬使用可能状況の実情がはっきりするだろうが、その状況は私が予測するに
深刻な問題であって、ロシア軍は弾薬制限を迫られることになる。

とはいえ、ウクライナ軍もまた砲弾と砲身に関する問題を抱えている。これは依然として短・中期的な
課題であり続ける。長期的なスパンでの西側の潜在的な弾薬生産量に関する評価見積は、
楽観的な見通しのものであっても、今後6~12カ月間でウクライナが必要とする量に、十分達しない可能性がある。

ウクライナ軍が露軍の攻撃を吸収し、その攻撃能力を消耗させることは、同軍にとって比較的有効に働いており、
その結果、今春後半には主導権を握ることになる。露軍は弾薬、相対的に良質な人員、
そして装備を浪費しつつあり、それによって露軍の防御力は全体的にさらに弱まる可能性がある。

私の印象だが、ロシアの戦線を安定化させたスロビキンは守勢戦略を好み、戦力の立て直しをしつつ、
ウクライナ南部でウクライナ軍攻勢に対する防御を望んで行っていた。その後、
夏季後半にロシア軍攻勢を発動させ、ドンバス地方の占領に取り組むつもりだった。

一方でゲラシモフは、一連の無益な攻勢の結果、ロシア軍を消耗させている。バフムートのように、
ある程度の戦果はあがったかもしれないが、戦略的な見取図を変化させるに至る可能性は低い。
ドンバス戦の第二ラウンドは、再びロシア軍を脆弱な状態に陥らせる可能性がある。