瓦斯電/日立 「夕風」発動機

海軍が1937年発注したHe112のエンジンJumo210Daはその排気量の大きさから将来的な発展性に乏しい代物であったが、海軍は瓦斯電にライセンス生産の可否を打診した。
通説では当時海軍が持っていた600馬力級の水冷発動機は大きくて嵩張るW型のみであり、これらと比較して軽量でパワーウェイトレシオに優れたJumo210Daがプッシャ式の水上偵察機等に好適と判断したためとされているが、各発動機の外寸や重量を比較するとこの説には疑問が残る。
内情としてはこのあたりで瓦斯電にも水冷発動機の製造経験を取得させたいという思惑があったとも、ユンカースから海軍担当者へのリベートの存在が疑われるとも言われるが定かではない。
いずれにせよ瓦斯電側では提供された発動機を分析した結果、自社の技術で製造可能であるがシリンダーブロックの特徴的な分割方法等馴染まない部分があるとしてライセンス生産については難色を示し、Jumo210を参考に独自に発動機を開発した。これが瓦斯電/日立唯一の水冷航空発動機となる「夕風」である。

本機は水冷V型12気筒で基本的な構成はJumo210Daを踏襲したものであり、SOHCの3バルブ(吸気2排気1)、各部ベアリングはボールやニードルタイプを使用せずメタル軸受、燃料供給はキャブレター式と、同じ水冷でもDB6xx系(愛知「アツタ」、川崎「ハ40」)に比べてひと世代前の仕様のままであった。他方、冷媒は入手性に難のあるエチレングリコールから加圧水へ変更され、シリンダーサイズは124x136mmから瓦斯電が使い慣れている130x150mmに拡大、排気量は約20Lから24Lに増している。結果としてやや大柄で約20kgの重量増とはなったものの、Jumo210と大差ない性能を示すエンジンとなった。