頭脳流出がロシア経済の将来の潜在力を奪う
こうした人たちの移住により、侵攻前の2021年末時点でロシアの銀行に預けられていた個人貯蓄の11.5%に当たる約4兆ルーブル(約6兆2,200億円)が国外に移転したと分析されている。ルーブル安が進む理由の一つがここにあるだろう。

報告書によると、移住者の86%がロシアの平均年齢(45歳)以下の若い世代で、うち80%が高等教育を受けていたという。ロシアは人口減少の一部を移民の受け入れで埋めているが、その多くは中央アジアの近隣諸国からやってくる人々であり、彼らの中で高い専門性を持つ人は多くない。ロシア中央銀行によると、昨年のロシアへの出稼ぎ移民の数は増加したものの、高度な専門能力を持つ外国人の数は、逆に29%減少したという。

こうした状況はまさに頭脳流出であり、一時的な労働力不足の問題に留まらず、ロシア経済の将来の潜在力を奪っているだろう。

ロシアは軍需経済化が進んでいるか
労働力不足が制約となって生産活動が停滞すれば、通常では、それが徐々に労働力不足を緩和していくことが期待される。しかし戦争を継続しているロシアでは、政府が財政支出を拡大させ、需要を無理やり創出している状況である。そのため、需給が緩和されずに労働力不足が長期化している。その結果、賃金と物価が需給ひっ迫のひずみとして高まっている構図だろう。

ただし、賃金上昇率の高まりは企業収益を圧迫し、民間企業の活動を阻害する。また、通貨防衛と物価高対策としてのロシア中央銀行の金融引き締めも、民間経済活動の逆風である。こうした中、民間需要や民間企業の活動は縮小していき、ロシア経済は財政支出に支えられる軍事関連の比率を高めていることが予想される。戦争継続が、人手不足や物価高に見舞われているロシア経済を、辛うじて支えている、という側面もあるのではないか。

ただしそうした環境の下では、軍需関連とそれ以外の分野の経済活動の差が拡大し、それが労働者の所得格差の拡大など、格差問題も生じさせている可能性もあるだろう。