仮に、ウクライナもロシアも自国に都合のよい発表をしているとしても、どちらの嘘が日本にとって危険かといえば、それは明らかにロシアの側である。ロシアの発信する情報は、侵略の正当化と既成事実化を目的とした政治宣伝であり、それを信じて「ウクライナが悪い」「停戦すべきだ」と唱えることは、結果的に力による現状変更を容認する立場に繋がる。これは日本の国益にとって極めて高リスクだ。台湾・尖閣・北方領土といった安全保障上の懸案を抱える日本が、侵略を黙認する前例を容認すれば、自国の抑止力を自ら弱めることになる。

また、国際的な道義の観点でも、被侵略国に「諦めて停戦せよ」と言うことは、被害者の自己決定権を踏みにじる行為に近い。日本はこれまで国際法と国連憲章に基づく秩序を支持してきた国であり、それを放棄すれば、国際社会での発言力と信頼を失う。自由主義陣営の一員として、ロシアの虚偽情報を口実に侵略の固定化を認めるような発言をすれば、日本自身が「ルールを守らない側」に見なされる。

さらに現実的に見ても、ロシアのプロパガンダは停戦や和解のための情報ではなく、政権の延命と戦果誇張のために作られている。死者数や損耗比率を極端に操作し、「ウクライナは壊滅」「戦争はすでに決着」と宣伝するのは、戦場の報告ではなく政治的な心理戦だ。日本人がその情報を事実として扱えば、客観的な判断を放棄し、プロパガンダの片棒を担ぐ形になる。

情報戦の時代では、どちらが嘘をついているかではなく、「どの嘘に騙されると損をするか」が問題になる。日本の立場から見れば、ロシアの虚偽に乗せられることが最も危険であり、ウクライナの情報操作に一定の誇張があったとしても、それは自国防衛の範囲内にとどまる。日本が取るべき態度は、どちらの宣伝にも盲目的に与せず、侵略を正当化する論理だけは決して受け入れないという一点に尽きる。