2016年07月07日 【将棋】「将棋世界」の中原誠・渡辺明対談と佐藤天彦新名人インタビューが面白い
8月号ではまた、羽生善治さんを4勝1敗で破って名人位を奪取した佐藤天彦さんのロングインタビューも読み応えがありました。
言葉の端々から、新名人の静かな自負が伝わってきます。
たとえば、逆転で羽生さんを下した名人戦の第2局について。
この対局では途中、羽生さんが優勢になったのですが、佐藤さんがそこから粘って少し差を縮めます。
それでも佐藤さんの玉に詰みがあったのですが、羽生さんが珍しくそれを逃して、佐藤さんが逆転勝ちを収めました。
そのときのことを、佐藤さんはこう振り返ります。
「羽生さんだって生身の人間です。要するに人間である以上は、絶対に詰ませというのは厳しい。
(中略)もちろん僕にとって結果は幸運でしたが、それだけではなくて、差を詰めたから起こったことでもある。
珍しく羽生さんが詰み逃しをした、という文脈だけでは語れない気がします」
興味をそそられるのが、先の渡辺竜王と同じく、佐藤名人もまた、昔の将棋をしっかり勉強しようという志向があるところです。
もともと佐藤さんは、すぐに結果を求めるような実用的な研究よりも、過去の偉大な棋士たちの将棋をみっちり研究するという勉強法を採ってきたそうです。
それは、若いときに自分の将棋の骨格と土台をしっかり作っておきたかったから。
そして、今もなおその勉強は続けているようで、こんなことを明かしています。
「今回の名人戦の最中も、昔の名人戦の棋譜を並べました。まだまだ古いものにも学ぶことは多いです。
元々自分はクラシックなものを学びたいという志向があるんですね」
渡辺明、佐藤天彦というトップ棋士が、共に、歴史に残る偉大な先人の知を貪欲に学ぼうとしている。
このことに僕はある種の感銘を受けました(もちろん、最新研究も怠りなく進めていると思いますが)。
読書でも、よくあるノウハウ本だけでなく、古典をじっくり読むことが、長期的に優れた知力と幅広い思考力を養うと言われます。
その姿勢に通じるものが、お二人の考え方にはあるように思われました。