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https://kobecco.hpg.co.jp/7241/ 2016年 12月号 神戸っ子 連載エッセイ 喫茶店の書斎から F 井上慶太九段 出石アカル 書 ・ 六車明峰

 井上慶太という人がおられる。将棋ファンならだれもが知る日本将棋連盟所属のプロ棋士である。芦屋市出身、加古川市在住。1964年生まれの52歳。
 名伯楽としても名高く、慕って弟子入りする若者も多い。一門の中からすでに三人のプロ棋士が育っている。船江恒平五段、稲葉陽八段、菅井竜也七段。いずれも俊英。近いうちにこの中からビッグタイトルを手にする棋士が必ず出るとわたしは信じている。

 慶太さん居住の加古川市は、特に全国的に有名なものがあるわけではなくどちらかといえば地味な一地方都市である。加古川在住の詩人高橋夏男氏は、昔は宿場町だったこともあり多少の皮肉を込めて「通り過ぎるまち」などと言っておられた。
しかし最近、将棋ファンの間では「棋士のまち」として全国的に知られるようになった。名刹鶴林寺が「竜王戦」や「王将戦」の舞台になり、「加古川青流戦」(2011年創設)という公式棋戦が行われるなど盛り上がっている。これもひとえに井上慶太一門の活躍によるものであろう。
いや少し言葉が足りなかった。加古川には井上一門以外にも以前からプロ棋士が在住している。加古川最初のプロ棋士、神吉宏充七段、タイトル経験者で“捌きのアーチスト”の異名を持つ久保利明九段。さして大きくもない一地方都市にこれだけのプロ棋士が集結しているのがなんとも不思議である。

 わたしが慶太さんの知遇を得てからもう十数年にもなるだろうか。ある人を介して、わたしが多くの子どもに将棋を指導していることを知り、ご自分が著された将棋本をたくさん提供して下さったのだった。
 このほど、その慶太さんから、「普及活動にお役立てください」と又々棋書をお贈り頂いた。直筆署名入りの『井上慶太の居飛車は棒銀で戦え』(NHK出版)である。
これはNHKのEテレで2013年10月から2014年3月まで放送された「将棋フォーカス」の講座を元にまとめられたもの。あの放送はわたしもずっと見ていたが、実に面白く分かりやすいものだった。
その最終回で、半年間アシスタントを務めた女優の岩崎ひろみさんがつい「(番組も楽しかったが)井上先生(そのもの)が楽しかったです」とポロリと本音を漏らしていたのがおかしかった。