2033年、将棋名人戦。 それをテレビで見つめる男がいた。
14歳で将棋界の俊英が集まる奨励会を勝ち抜きプロ入りした、藤井総太さんだ。
「あの頃は若かったですね(笑)」若き日を回想する藤井は、どこか寂しげだ。
「未だに当時の夢を見ることがあるんですよ。最年少17歳で初タイトルを獲得する夢を」
藤井さんは19歳の時から原因不明のスランプに陥り、そこから数年間試行錯誤を続けたが
輝きを再び見せることはなく「フリークラス宣言」をして順位戦からは引退。
今は将棋バーを営む傍ら、地元の将棋教室で子供達に将棋を教える日々を送っている。
暖簾の屋号の文字は名人、菅井竜也の手によるものだ。
「いらっしゃい」。尾張瀬戸駅から歩いて3分。
「将棋BAR そうちゃん」のえび茶色の暖簾をくぐって店内に入ると白いタオルを
頭に巻いた藤井さんの元気な声に迎えられた。
「去年の4月にオープンしました。暖簾の『そうちゃん』という文字は菅井名人に書いて
いただいたものだし、開店に合わせてスポーツ紙やテレビでも取り上げてもらった。
おかげで、府外から足を運んでくださるお客さんが多かったのはうれしかったですね」
藤井さんは本当に嬉しそうに、僕たちに語ってくれた。
かつてのライバルで現竜王の佐々木勇気について尋ねると…
「知ってます?25歳までは僕の方が(順位戦で)上だったんですよ?」と、おどけ
「俺も不調さえ無ければって…歯がゆいですけど」
「今はもう現役に未練はありません。今度はこの将棋BARで日本一になれるよう、
がんばるだけです!」