【このスレのルーツ?】

…私の暗中模索はしばらくつづいたが、やがて私は観戦記の本筋らしいものを発見した。
 それは、対局風景の描写であった。
 その日の天候や対局場の紹介(「国民新聞」の対局場は溝呂木七段の家にかぎられていて、
しまいには何も書くことがなくなったが)、また対局者の服装や対局中の顔色動作などを
できるだけリアルにくわしく書くことである。
 私のねらいは、読者をして勝負の場の空気を実際に観戦しているように感じさせることであった。
 それまでにもそうした描写が全然ないではなかったが、それは刺身のツマ程度で、
私のようにそれに主力を注いだものはあまりなかった。
 時には編集部の方から
「将棋指しが昼飯になにを食ったか、そんなことまで書く必要はないじゃないか」
と横槍の出たこともあったが、私は
「そんなばかな話はない。鰻丼を平らげるのと、笊蕎麦ですませるのとでは違う。
 それでその棋士の嗜好もわかれば風貌もおのずと感じられ、読者は親しみをますじゃないか」
と、反駁して改めようとしなかった。
 幸い、これは読者に受けて将棋欄がおもしろくなったという投書がくるようになったし、
その後あちこちの観戦記で私流の対局描写を見うけるようになった。
 私は鉱脈の一つをさぐり当てた気がしてうれしかった。

倉島竹二郎「昭和将棋風雲録 名棋士名勝負物語」より