闇落ち回序章

段々と寝る時間が増え、横になりながら携帯を触るだけの日々。最近はそれも大分しんどくなってきている。
家は汚れきり弟の服さえ洗ってやれない。きっと学校でも辛い思いをしていると思う。
何も言わないけど…。辛抱強くて優しい子だから。
母は相変わらず帰ってきたり来なかったり。彼女にはもう何の期待もしていないけれど、母がいればあの男は必ずやってくる。

”おかしな目で私を見てきたり触ってきたりする。気のせいなんかじゃない!変だよ!”
そんな内容でこの前も言い合いになってしまったばかりなのに。
チャラついた品のないこの男は、髪の毛のうねりを気にしながら今日も我が家の動線上を塞いでいる。

朝から本当に体調が悪いもので、さっきはトイレからの帰り道を上手にまたげなくて手を付いてしまった。
謝りつつも顔だけは平静を装ったけれど。この男の前で弱い私は絶対に悟らせるべきではないから。

母がお風呂に行けば更に苦痛の時間が始まる。必ずこうしてニヤニヤと下卑た笑いで、
「ゆきちゃんってさーやっぱ清〇果耶にクリソツじゃね?マジ卍!」

知らない。そんなの。話すのだって辛いのに。
背を向けてMIKIHOUSEのタオルケットに包まる。ここだけが私の安全な場所。

「ねーねー腹減った。ご飯」
もう缶詰だって上手に開けられない。それを分かっててこの男は、もたつく私を嘲笑おうとこの男は。

「出ました缶つま(笑) あ、俺シジミとか絶対無理なんだけど!カニねーの?」
一瞬、気が遠くなるほど体の芯から震えた。蟹なんて…蟹なんて私、殻を触ったことだってないのに!