島尾敏雄
「ちっぽけなアヴァンチュール」は実話を元にしてるんだろうか… >>344
最初は「魚雷艇学生」が引き締まってて読みやすく、次に読むものを導いてくれるよ 彼に先導をあずけた私は探険者の不安を背負わなければならない。川の流れ
の浮流物が突然渦巻の中にまきこまれるように道が急に下の方に分れて行く
ところにやって来、私は自分が奇妙な行為の当事者になろうとしていることに
気がつくと、軽い戦慄に襲われた。すると、外部の世界では絶対に弁解のつ
かないあの内部の論理との境界での戦いから生ずるためらいが、醗酵して私を
酔わせはじめるのだ。
島尾敏雄『出孤島記』
戦後世代はその声を、どのように聴くであろうか。以上に見てきたものとは
傾向を異にして、戦争とはある距離を保ち、その中にまきこまれまいと努力
した青年学徒の事例も、もとより少なくないが、その実態はいくつかの行き方
に分けることができるように思う。第一は、あたえられた現実を達観しよう
とする態度である。
吉田満『戦中派の死生観』
重なり過ぎた日は、一つの目的のために準備され、生きてもどることの考えら
れない突入が、その最後の目的として与えられていた。それがまぬかれぬ運
命と思い、その状態に合わせて行くための試みが日々を支えていたにはちがい
ないが、でも心の奥では、その遂行の日が、割けた海の壁のように目の前に
黒々と立ちふさがり、近い日にその海の底に必ずのみこまれ、おそろしい虚無
の中にまきこまれてしまうのだと思わぬ日とてなかった。でも今私を取りま
くすべてのものの運行は、はたとその動きを止めてしまったように見える。
島尾敏雄『出発は遂に訪れず』