である。小市民よ、さもあらん、といった生 き様である。まったく、この主人公は素晴ら
しい。そして、友人も素晴らしい。この低俗 な生き方が許されるのは、「新訳 走れメロ
ス」の主人公と友人が戦っている相手が、世 襲的王さまではなく、ただの大学の人間関係
における権力者であるからかもしれない。わ たしは、世襲的王さまに支配されるのを絶対
に抵抗しようという気持ちはあっても、大学 の人間関係の中でつくられた権力者には、そ

れほど、抵抗しようとは思わないかもしれな い、と書いた時点で、わたしの人生に登場し
た人間関係の権力者を憎む気持ちが噴出して きて、やはり、世襲的王さまでなくても、人
間関係の権力者などには絶対に従うものかと、怒りが浸透してきた。ここにおいれ、わたし
の思い描いていた「新訳 走れメロス」の権 力者は憎くないという思いこみは打ち砕かれ、
やはり、権力者は憎いという結論に達した。 権力者が命令権などをもつわけもない世界で、

絶対に約束を守らないと逃亡しつづける主人 公は正しい。まったくもって正しい。人の生
き様とはかくもあるべしである。友情なんて、なあなあで修復は可能だ。それよりも、権力
者のいいなりになることだけはさけねばなら ない。ここにおいて、「新訳 走れメロス」
の主人公と友人は、まったくもって、正しか ったのだと、わたしは思うのである。

おわり。