「陽氣な鬼」高見順

茶碗のふちを箸でたたくな
餓鬼(がき)がやってくる
大事なごはんを餓鬼に食われる
幼兒の私に祖母が言った

食後靜かに横たわった
今は年老いた私のところへ
奇妙な鬼どもがやってきた
なんの物音も立てはしなかったのに

外には雪が降っている
雪に足跡を殘さず
足も濡らさずに庭から
私の部屋にはいってきた

小肥りした鬼どもは
顔の色艶もよく飢えてなどいない
きっと私なんかよりずっといい暮らしをしているのだ
病み衰えた私のほうが餓鬼のようだ

何をしに來たのだろう
私を慰めに來たのか
こんな陽氣な鬼のほうが
骨と皮の餓鬼よりむしろ氣味が惡い

(続く)