死のむかふへ   吉本隆明

ここは三月の死んだくにから
わづかに皮膚をひとかはうちへはいつた意識のなかだ
意識のいりくんだ組織には死臭がにほひ
こはれかけた秩序をつぎあはせようとする風景と
そのなかにじぶんの生活をなげこまれながら
はるかに重たい抗命と屈辱とをかくまつた べつの
意識が映る
ぼくたちの意識を義とするものよ
それはどこからきてぼくたちと手をつなぐか
それは海峡のむかうの硝煙と砲火あるところからか
またそれはヨオロツパのおなじ死臭のなかからか
それはおなじ死臭の
べつな意味を
死んだ国のなかでつくり出さうとするものからか
死んだにつぽんよ
死んだにつぽん人よ
おまへの皮膚のうへを砲をつんだワゴンがねりあるく
おまへの皮膚は耻をしらない空洞におかされてゐる
おまへの皮膚から屈辱がしんとうしてゆく
やがておまへの意識はふしよくされた孔から
じつに暗い三月の空をのぞくだらう