石原吉郎 「詩の定義」

詩を書きはじめてまもない人たちの集まりなどで、
いきなり「詩とは何か」といった質問を受けて、返答に窮することがある。
(中略)
ただ私には、私なりの答えがある。
詩は、「書くまい」とする衝動なのだと。このいいかたは唐突であるかもしれない。
だが、この衝動が私を駆って、詩におもむかせたことは事実である。
詩に於ける言葉はいわば沈黙を語るためのことば、「沈黙するための」ことばであるといっていい。
もっとも耐えがたいものを語ろうとする衝動が、このような不幸な機能を、ことばに課したと考えることができる。
いわば失語の一歩手前でふみとどまろうとする意志が、詩の全体をささえるのである。