(続)帰りのタクシーで運転手さんに「どうだった?」とたずねられ「いやあ……有名にならないと呼べないらしいっす……太宰」と言ったら「あははは」と笑われた。さらに、
「あのイタコさんってずっと昔から元祖イタコやってるってすごいっすねー」
「は? あの人きたの二、三年前だよ」
「え……そうなんだ。でも元大学教授なんですね」
「いやいや、あの人、前は自衛官だよ?」
「…………」
タクシー内に沈黙が積もる。
ぼくはタクシーの窓から見える山を、うつろな目で見つめ続けた。

追記:太宰の命日は一三日で合っていた。
(初出:文學界 9月号「アウトサイドレビュー 恐山」)