それで門を入ってすぐの南側のいまは空き地になっている隣りとの境いの低いブロック塀の前
に並んでいるツツジのそのまた前に、奈緒子姉の車を入れるために移動させた妻の鉢植えを二段
の台に乗せたりまわりに置いたりしてから、ホースを引っぱってきて水を撒きはじめた。鉢植え
とツツジが終わると次に、紫陽花と南天と夾竹桃があって夾竹桃にはピンクの花が咲いていて、そ
の手前に水道の蛇口があって、そこから先は木が二列になっていて、手前に人の背と同じくらいか
それより低い金木犀、楓、梔子、沈丁花、猫柳……があって、奥の塀にちかいところが黐木、松、
椹、棕櫚……で、水を撒いているうちに奥に生えている木には子どものころだいたい全部登ってい
たことを思い出した。


 小さなイチゴとたぶんミントの鉢が一番下の段に載っている三段の台の一つ上には「サラダバ
ーネット」と、買ったときのプレートを憶えに挿している鉢があって、サラダバーネットは一点
から細い茎が繊細な感じで放射状に、あるいは噴水のように伸び広がって小さな小さな葉が舌平
目の骨のように規則正しく左右に並んでいて、根元に近いほど葉は小さく遠ざかるほど大きくな
って、大きい葉は普通のやや長円の丸みのある葉の形だけれど、小さい葉は扇のような二枚貝の
貝殻のような、広がるだけで葉先がせばまらない形をしていて、小さい葉から大きい葉への形の
変化が一つの茎に並んでいるのを見ると、植物というより貝か何かの成長を俯瞰しているような
気分になり、ホースの水があたると規則正しく並んだ小さな葉が微細に刻まれたリズムでシャラ
シャラシャラシャラシャラ……と揺れつづける。

『カンバセイション・ピース』