■ トラウマを描いた野島伸司

消費社会の“モノ”の過剰さと、“物語”の空虚さを体現していたトレンディドラマがその役割を終えたときに、90年代のドラマは始まりました。
この比喩を続けると、この時期にどう“物語”を過剰にしていくかというゲームが展開されることになった。
過剰なストーリー展開で見せる「ジェットコースタードラマ」が生まれたのもこの頃。それに加えて当時、大事MANブラザースバンドの「それが大事」とか、KANの「愛は勝つ」といったヒットソングが流行ったでしょう? 
あれと同じで、当時のマスメディアはほとんど胸倉つかんで感動しろと言っているような、ある種の“ベタ回帰”のフェイズに入ったと思うんですよね。

 今、僕が話した一連のトレンディドラマからベタ回帰への流れを体現していたのが、間違いなく野島伸司でしょう。
彼は、トレンディドラマでデビューしてまさにベタ回帰のお手本のような『101回目のプロポーズ』(91年)や『ひとつ屋根の下』(93年)の大ヒットを通じて、トップクリエイターになっていった。
このとき彼がやったのは、ある種の物語の“感動サプリメント化”のようなものだと思います。