『大衆文学時評』は、>>272にある通り、吉田健一の主要な業績ではない。
全集(集英社の著作集)以外では再刊・再録されていないし、文庫化も当然されていない。
しかし、読売新聞に連載されており、書評というものの影響力が今よりは大きい時代だった。

新田次郎は新進作家として、気象庁職員との二足の草鞋でデビューしたが、
作家専業を決意した大きな理由のひとつに、吉田健一の時評で取り上げて貰ったことを挙げている。
複数回にわたって言及され、当然ながら毎回絶賛などではなく、厳しい評価もままあった。

同年生まれであっても文壇の大先輩だった吉田健一が亡くなった際、新田は慟哭したという。