【産経新聞 文芸時評】公共図書館に未来はあるか 5月号 早稲田大学教授・石原千秋
http://news.livedoor.com/article/detail/13004719/

教員のコメントコーナーもあるが、ある教員が近い将来図書館はなくなるかもしれないと話した。
そうだろうなあという契約を、ごく最近行った。公共図書館への電子書籍の販売契約である。
いまはまだ過渡期のようで、一度に一人、回数制限、期間制限などがある。
将来的には一閲覧いくらという選択肢もあるかもしれない。公共図書館と出版社・作家との関係は微妙だが、
日本に電子書籍で小説を読む習慣が根付かなければ、文学が滅びることだけはほぼまちがいない。
公共図書館が電子書籍だけを貸し出す日も近い将来来るだろう。
そうなればもう「図書館」という建物はいらなくなるかもしれない。
極端に言えば、ホームページだけあればいい。
「憩いの場兼閲覧所」として残るだけかもしれない。

文学界新人賞は、沼田真佑「影裏」に受賞が決まった。松浦理英子の選評は「受賞作『影裏』は
きわめて上質なマイノリティ文学である」と、きっぱり言い切ってからはじまる。みごとな評価宣言である。
「影裏」は、首都圏から岩手は盛岡に移り住んだ今野秋一が、釣り仲間だった日浅との体験を語る小説である。
今野自身が「性的マイノリティー」であることがそれとなく語られ、日浅のやや破綻気味な性格と体験、
そして東日本大震災の経験も書き込まれる。森の木々や生き物の名前がきちんと書き込まれ、
その森の中にこれらの出来事も埋め込まれていく。都会派のお気軽な田舎暮らしとはまったくちがった生活がそこにあることが、
これらの名前の数々が雄弁に物語っている。