【文芸月評】三代記 一瞬一瞬で描く
今年の文学界新人賞に決まった沼田真佑(しんすけ)さん(38)の「影裏(えいり)」の主人公は、
同性の恋人と別れ、東京から岩手に異動して2年になる男性会社員だ。社内に遊び仲間もできた。
だが、会社をやめたその友人は生活が乱れ、東日本大震災の津波に巻き込まれたのか行方不明になる。
2人が自分の心の揺れを抑え込むように熱中する釣りの様子、豊かな自然の描写に精彩がある。

太田靖久さん(41)の「リバーサイド」(群像)は、大学を出て銀行員になった青年と、小学校の
サッカーチームの仲間で、高校を卒業して派遣の仕事につく男との関わりを描く。面倒くさいけれど、
変に「正しい」ことを語る男の存在が主人公は気になる。丁寧な筆致で出来事や感情の流れをたどり、
男の突然の死がやりきれない影を落とす。