浅田 だからさっきの『シェルタリング・スカイ』でもね……。

蓮實 抜けないんですよ、抜けないんですよ、あれは。

浅田 あれは全然抜けないんですよね。常に中間地帯にしかない。その中間地帯において、
    しかし驚くべき繊細さが示されていることに目を見はるべきだし、また、それを伴って、
    どこにも行き着くことのない、あの絶対的な退屈と対になった絶対的な美を投げ出してしまうことの
    野蛮さにも驚くべきだし、それを何か問題意識の欠如なり何なりをあげつらって批評し得たと思う、
    その浅はかさは許しがたいですね。

蓮實 「朝日ジャーナル」に鈴木布美子さんが書いていましたけど、あれは許しがたいことですね。

浅田 やはりああい卜うものを、これは無根拠ではなく、断固として擁護しなければならない。
    やはりそういう意味では淀川長治さんは偉大なんじゃないですか?

蓮實 偉大ですよ。淀川さんのみですよ、分かってたのは。

浅田 『ラストエンペラー』の批評も彼のは良かったですね。あれは歴史とは何の関係もないので、
    広大な空間に一人置きざりにされた子供の映画だ、と。正しいでしょう?

蓮實 正しいですよ。

浅田 『シェルタリング・スカイ』もそうですよね。物語は蒸発してしまってどこにも行き着かないんだけれども。
    そこに満ちている極端な繊細さと野蛮さというのは、やはり驚嘆に値しますね。

蓮實 今日の話はほぼそれを結論にしていいのではないかという気が致しますが。

浅田 やはり『シェルタリング・スカイ』を見に行かなければならないということですね。