彼がおぼえていたのは、ある夏のひっそりした夕暮れどきで、あけはなたれた窓からは斜めに入り日がさしこみ
(この斜光がいちばん記憶に残っていた)、部屋の片隅には聖像がおいてあり、その前には燈明がともっていて、聖
像の前に膝まずいて、ヒステリーでもおこしたように金切り声でわめきたてながらすすり泣いている自分の母が彼を
両手でつかんで痛いほどぎゅっと抱きしめては、わが子のゆく末を聖母に祈り、聖母の庇護をもとめるように、両腕
で抱きしめたわが子を聖像のほうへさし出している ...... とそこへ突然乳母が駆けこんできて、びっくりしている彼女
から子供をもぎ取るという、そういう光景なのだ! アリョーシャはその瞬間の母の顔までおぼえていた。彼の話に
よれば、その顔は狂った顔ではあったが、彼の記憶するかぎりではじつに美しかった

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アリョーシャには純真な母親から受け継いだ信仰の萌芽となるべき美しい記憶がある。

イワンには心の拠り所がなかった。心の大地がなかった!

ただ父親から受け継いだ強力な知性と意志があるばかりだ。

(断定的でごめん。これから丹念に読んでいけば違うとなることを予測しておく)