続き
「『平成くん−』は、安楽死法が実現している架空の日本というのがポイントです。その設定がどこまでわれわれが今生きている世界に対して批評性を持ちうるのかという問題がありまして。
私個人は一定の批評性を認めてはいいのではと考えました。しかし選考の場では、ほとんどの選考委員がそこに批評性はない、その設定が必ずしもわれわれが生きるこの時代、平成の時代に対する批評性を持ち得ていないという意見が大勢でした。
特に安楽死について、本来死ぬことができない人のためのものなのに、この小説では死にたい人のためのものになっている。この扱いは雑なのでは、という意見がありました」
「あとは、時代の先端をいくアイテムが出てくる割には、小説自体としては古めかしいのでは、という意見もありましたし、
女性の語りというスタイルに見合うだけのリアリティーが小説に感じられないという意見もありました。私としては、主人公が母の遺骨を神社に捨てにいくシーンや、歩道橋の上で高架に触れるシーンなどの細部に魅力があると感じたのですが、
もっとそういうシーンがほしかった、そのシーンが目立つのはむしろ他のシーンがもう一つだからではないか、という厳しい意見も出ました」