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バフチンのドストエフスキー論のポイントは、「ポリフォニー」と「カーニバル」である
ポリフォニーは、モノローグの対概念で「多重言語、多重音声」のことである
バフチンは、ドストエフスキーをポリフォニー、トルストイをモノローグの代表として対比している

「詩は求心化、モノローグ化する傾向があるのにたいして、小説は脱中心化であり、対話を志向する。
詩人は他者についても自分の言語で語るのにたいして、散文作家は、自己に関しても他者の言語で語ろうとする。」

「単純に見えていたもののすべてが、ドストエフスキイの世界にあっては、複雑で複合的なものとなった。
それぞれの声のなかにかれは議論しあう二つの声を聞き、それぞれの表現のなかに別の対立する表現へとただちに移行する亀裂や構えを聞くことができた。
あらゆる現象が奥深く二義的、多義的であることを感じ取った。しかしこれらすべての矛盾や分岐は弁証法的なものとならなかった。」

「ドストエフスキイ世界にあっては、すべてのひと、すべてのものがおたがいを知っており、接触をし、顔をつきあわせ、おたがいに話しはじめざるをえない。
カーニバル化によって、大きな対話という開かれた構造をつくりだすことができ、人びとの社会的相互関係を高次の精神や知性の領域に移すことができた。
この領域はもっぱら、ロマン派のような単一で唯一のモノローグ的な意識、単一で不可分そして自己自身の内で展開する精神の領域となっていたものである。
カーニバル的世界感覚は、ドストエフスキイが倫理的唯我論だけでなく認識論的唯我論をも克服する手助けになっている。」

「それぞれに独立して溶け合うことのない多数の声や意識、十全な価値を持つ声たちの真のポリフォニーこそ、まさしくドストエフスキイの小説の基本的特徴なのである。
ポリフォニー小説にあっては、声なき奴隷は存在しない。創造者に同意しなかったり、反乱すら起こしかねない声たちがうごめいている。」