>>60
私は左足を前に出し、腰をやや落として、左掌で牽制をした。右拳は握って脇に引く。
そうして、巨大兎の出方を伺った。
巨大兎は軽やかに跳ねる。ボクシング、いや、高く掲げた両腕から見て、ボクシングスタイルか。
巨大兎の肩が、ぴくりとした。距離を詰められる。赤い目と私の目が合う。
「るあ!」
私は奴の白い眉間に正拳突きを放った。消えた。違う。白い毛が舞っている。上だ。
巨大兎は私を飛び越えた。後ろ踵蹴り。
高速の接近。狙いは延髄か。
前方に上体を倒し、勢いで右後ろ足を蹴り上げる。
が、それは奴の踵、肉球に触れただけだった。
私の後ろ蹴り上げをバネにして、奴はさらに高く跳躍し、時計に見入りながら、逃げさる。
向う先は森の向うか。
木陰から突き出ているのは、剣山の針のように煌くのは、トランプ兵の槍だろう。
逃げ込まれると厄介だ。
私は奥歯を噛み締め、全力で追い始める。
ダートのような柔らかい土。虹色の空から注ぐ陽に、わたしの体が紅茶色の影を作る。
異常な世界だ。くそ。
女子空手部、合宿初日、昼ごはんを食べてうとうとしていたら、走る兎を見かけた。
追いかけるといつのまにか、こんな世界に来てしまった。
兎だ。あの兎を撲殺しないと、戻れない気がする。トランプ兵は槍が厄介だ。が、根性で乗り切る!
私は気合の雄たけびをあげた。