使用お題→『星』『嘘つき』『ニーハイを履いてる彼女』『冬』『塔』


【肉食彼女は今日も激しい】

「ほら、誠先輩。あれがペルセウス座ですよ」

 予備校から自宅への帰路。私は夜空を指さして言いました。

「ペルセウス。ギリシア神話の英雄です。誠先輩はペルセウスの話はご存じですか?」

「いや、聞いたことないな」

 誠先輩が寒そうに両手を抱いて体を震わせます。

「ではこの結城すみかが教えて差し上げましょう!」

 私は小走りで誠先輩の前に出て振り向き、両手をぱあっと広げました。
 誠先輩が顔をしかめて、私の脇を足早に通り抜けていきます。

「嫌な予感がするんだけど」

「まあまあ、最後まで聞いてください。可愛い彼女の知識自慢ですよ?」

 私は誠先輩の後を追い、後ろの袖を掴みました。今日は逃がしません。

「ペルセウスの母親はダナエと言います。父親はゼウスです」

「ゼウスって、あの?」

「はい。スーパーゼウスでお馴染みのゼウスです。ギリシア神話ですから」

「古いよそれ」

 野暮なツッコミには応えず、私は話を続けました。

「ある日、ダナエは塔に閉じ込められます。ダナエの父に『孫に殺される』という予言が与えられたからです。孫を作らせないようにしたんですね」

「ひどい話だな」

「はい。父は王様でしたから。きっと自分が一番な人だったのでしょう。しかし、ダナエが美人だったことをゼウスは見逃さなかったのです」

 私は得意げに指を立てて言いました。

「ゼウスは黄金の雨に姿を変えて塔に侵入しました。そしてダナエとまぐわったのです」

「まぐわ……ああ、やっぱりそういう話……」

「そうして生まれたのがペルセウスです。さあ、誠先輩もゼウスを見習って、私と同衾しようという気概を見せてください。お父様が恐いなんて、そんな軟弱な事を言っていないで、早く!」

「いや、単純に僕が嫌なだけだから。むしろお前の親がなんでも既成事実にしようとしてくることに恐怖を覚えているんだが」

「なぜ嫌がる!」

「十六歳にはまだ早い。色気を感じない」

 誠先輩が冷たく言い放ちました。可愛い彼女に言う言葉でしょうか。
 けれどそれでめげる私じゃありません。