【変わる物、変わらない物】
青空の広がる暑い夏、俺は久しぶりに故郷の田舎に帰省していた。
「くっそ、暑いなぁ……」
「帰ってきて早々、何言ってるの?」
「暑いもんは暑いんだ……。仕方ないだろ」
そこにいたのは故郷に残った幼馴染の立花葵である。俺の実家の隣の家に住んでおり、こうやって昔からお互いの家を行き来していた。
今ではお互いに年を取り俺は都会で仕事に追われ、彼女は結婚し子供もいる。
昔は彼女に恋をしていた事もある。麦わら帽子に白いワンピースの似合う清楚な女の子だったのだ。おそらく、彼女の方も俺の事を意識していたとは思う。だけど、俺は自分の目標の為に故郷を飛び出して行った。
そんな昔の事に感慨を覚えていると、背後から衝撃が襲う。とはいっても軽いものだが。
「あ、おっちゃん久しぶり!」
「おっちゃん言うな! お兄さんと呼べ!」
「もういい歳なんだからいい加減認めなさいよ」
「そうだぜ、おっちゃん!」
この俺をおっちゃん呼ばわりしてくる子供は葵の息子である立花健太だ。確かもう小学六年生くらいだったか?
「あ、おっちゃんちょっと待ってね!」
「ん? どうしたよ?」
「ちょっとねー!」
そう言って健太はスマホを取り出して、操作し始める。
「お、いっちょ前にスマホ持ってるのか。スマホゲームでもやってるのか?」
「そうだよ! みんなの中で流行ってるしね!」
「そういう時代なんだな。今の子供も大変そうだ」
「私たちの時代には無かったものね」
俺たちの時代といえば、麦わら帽子を被って自然の中で走り回っていたものだ。時代とともに変わっていく。こういうのを有為転変とでも言うのだろうか?
「母ちゃん、腹減った!」
「いきなりだな、健太」
育ち盛りというのもあるのだろう。それに今はおやつ時でもある。いきなりな発言ではあってもおかしな事を言ってる訳ではない。
「……そうね。確か頂き物のレーズンブレットがあったわね。それでいい?」
「いいよ!」
健太は食べれる物があると分かり、台所にすっ飛んでいく。レーズンブレットか……。
「そういえばレーズン、苦手だったよね?」
「あぁ、未だにあれは苦手だよ」
時代とともに変わっていくものもあれば、未来永劫変わらない物もある。俺がレーズンブレットを好きになる事もないだろう。
そして故郷の田舎ののんびりさもあまり変わりはしていない。
久しぶりの帰省も変わったもの、変わらない物を実感させてくれた。
暑い青空を見上げながら、そうしみじみと感じるのであった。