橋を跨ぎ取り囲む長州の攘夷志士。
沖田は三人を相手に臆せず鯉口を切った。

『菊一文字、お相手を致す......』

濡れた刃先を正面に向け、沖田は想いに耽る。
そういえば刀剣商が刀を安く卸す替わりに宣伝して欲しいと頼まれたのはいつだっただろうか。

隙を伺っていた志士は勢いよく袈裟斬りを放つが紙一重で避けつつ喉を穿った。
肉から引き抜く剣は手に響き、血に濡れた剣先は次の敵を選ぶ。

刀商の話によると菊一文字は鎌倉時代初期の刀工、菊一文字則宗によって製作された刀の総称らしい
主に一文字丁字乱れの刃紋と、『菊花透かし』と呼ばれる鍔を用いたものが有名なんだそうだ。
起源は、後鳥羽上皇が諸国の名刀工を招いて鍛えさせ、親しく焼刃をしたと伝えられている。
則宗は御番鍛冶を務めた事から、後鳥羽上皇が定めた皇位の紋である16弁の菊紋を銘に入れることを許された。
則宗は福岡一文字派の祖で備前国の刀工であることから、銘を「一」とだけ彫り、この刀はそれに加えて菊の紋を彫ったので「菊一文字」と称されるようになったと言われているらしい。
このことから、則宗が製作した一連の日本刀の総称は、一般に「菊一文字」「菊一文字則宗」の名で知られるようになったんだそうだ。
ただしあくまで称したのであって、「菊一文字」と言う銘の刀は存在しないそうだ。
それに則宗の刀の中に菊の銘を切ったものの存在は誰も知らないらしい。

そもそも個人的な見解だけど、則宗の刀は既に国宝的な扱いを受けており藩主様ですら入手は難しいものとなっているはずなんだけど.....。

沖田は思い出し笑いをしつつおもむろに辺りを見回す。
そこには息倒れた死体が積み重なり、他には町人しか見当たらなかった。

『まあ、こんな感じ?』

誰に語るでもない呟く台詞はスレに漂い、沖田は颯爽と字数を稼いでいった。