最近とみに寒くなってきた。冬である。私が一等好きな季節だ。何と言っても美しい。冬は女性に喩えられることが多いけれど、これは大いに頷かされる感性だ。
 ひりつくように澄み切った空気、喧噪を忘れたような静けさに、凍えるような冷たさ。夜は特にそれらが顕著で。ああ、まるで残酷な女性のように美しい。
 などと言う、私も女だけれど。しかし、冬といえば成熟した女性のイメージだ。まだJKである自分とは別物よね。
 そう、花も恥じらうJK。ただし、ネット上ではリーマンAだなんて、大人の、しかも男性の振りをしているのだが。そう、精一杯の背伸びとして。

 なんてことをつらつらと思いながら、家に帰るために夜の道を行く。学校から直接予備校に行き、それも今終わって帰宅している最中だ。
 なので、身に纏う服装は学校指定の制服のままである。

「寒い……」
 すると、その言葉が引き金になったかの如く、急に突風が吹き抜ける。私は身を屈めるような体勢をとった。
 冬が好きとはいえ、寒さに強いわけではない。怯みそうになるも、敢然と立ち向かう。もこもこのコートと、首にぐるぐる巻いたマフラーが味方だ。……ただし、裏切り者ならぬ裏切り物が一つ。スカート、お前よ。全く、寒くて仕方ないじゃない!

 しかし、制服でスカートが指定されているのだから如何ともし難い。私は極寒の寒空の下でも、この裏切り物と共にあらねばならないのだ。
 スカート姿でも、防寒対策ができるだろう? 男性諸氏は不可思議に思われるかもしれない。例えばそう、手っ取り早いのはスカートの下にジャージでも穿くとか。
 確かにジャージでも穿けば温かいのでしょうけど、それはJKとしての矜持が許さない。膝上のスカート丈を着用し――何センチ上かは個々人によるが、細く美しい美脚をさらすのが、JKのエスプリというものである。

 黒タイツくらいなら、まあ、JKとして許されるアイテムではあったけれども、何故だか私の高校では、タイツが校則で禁じられている。
 生活指導の教師方は、私たちに何か恨みでも抱いているのかしら? ……恨んでいてもおかしくないわね。
 馬鹿な学友たちの所業を思い出すにつれ、疑惑は確信に変わろうというもの。

「寒い、寒い……あー、寒いいいい」
 寒さが和らぐわけでもないのに、思わず繰り返し呟いてしまう。正面から吹き抜ける風から逃れるように顔を横に向けると、ミスドの店舗が目に入る。
 ガラス越しにゴッホの『夜のカフェテラス』のような、温かな黄色い明かりが歩道を照らし出している。
 私は、その店舗の中に逃げ込みたい衝動に駆られるが、思い直したようにぶんぶんと頭を振る。
「ダメよ、まっすぐに帰って、作品を完成させなくちゃ!」
 今日は第○○回ワイスレ杯の〆きり日。既に一作品を投稿済みではあったが、予備校の授業を受けている最中に、不意に新しいアイデアが思い浮かんだのだ。それも、投稿済みの作品よりも、ずっと良い作品になりそうなアイデアが。
 ワイスレ杯の皆は、仲間だ。でも、互いに鎬を削るライバルでもある。負けたくない。負けられない!
 入賞は過去に果たした。ならば、後は一位をとるだけだ! きっと、結果発表の際に、ワイ師匠はこう書き込む。一位は〇〇〇(レス番号)! おめでとう! と。
 私はその祝辞の言葉にこう返すのだ。
『私が、こんな作品を書けるまでになれたのは、ワイ師匠のお陰です。ありがとうございます』と。
 きっとそう書こう。これまでの感謝の念を込めて。そう書くのだ。

 冷たい風のためだけでなく、興奮に頬が紅潮する。
 私は挑みかかるように、吹き抜ける冬の風を切りながら家路を急いだ。