>>218
こんな感じだろうか!(`・ω・´)

 繁華街から少し外れたところにゲームセンターがあった。店舗に挟まれて肩身が狭そうな状態で生きながらえていた。
 限られたメンバーだけが通う秘密の場所。今日も一人の少女が少年と連れ立ってやってきた。共に中学校の制服を着ている。
 店の奥で競馬新聞を読んでいたしょぼくれた店主は一瞥しただけでレースの予想に戻っていった。
「今日も対戦だからな。速攻でぶっ潰してやる」
「ハルカ、そろそろ諦めたらどうだ? ぜってー、俺には勝てねぇよ。今時、ゲンギ使いなんてお前くらいなもんだ」
「負けて泣くなよ。今日のわたしは最強に強いんだ。あんたが小学校でクソを垂れ流した時みたいに泣かしてやるよ」
「バ、バカ、やめろ。あれは腹の状態が悪い時に、お前が蹴るからだろ。声がでけえよ」
 少年は小声で拝むような仕草をした。少女は鼻で笑った。格闘ゲームの筐体の前に置かれた椅子にドカッと座る。
 急いで少年が回り込む。用意が出来たところで使用キャラの選択となった。
「俺はリュウジで行くぜ。ハルカはゲンギじゃない!?」
 驚きの声を無視してゲームは始まった。頽廃とした雰囲気の資材現場に二人のキャラクターが向き合う。お決まりの台詞で死闘が始まった。
 画面上のリュウジはいきなり右ストレートを食らった。画面の端まで吹き飛ぶ。少年の驚きを反映していた。
 その間にゴウギは高々と跳躍。あり得ない速度で鋭角に落ちてきた。
 倒れていたリュウジの腹部に靴がめり込む。内臓を踏み潰され、口から血をしぶいた。ゴウギの非情な追撃は続く。その状態で凄まじい回転を始めたのだ。
 骨と肉を撹拌するような生々しい音が店内に響く。リュウジの皮膚をあばら骨が突き破った。
「クソッ、起き上がれ!」
 少年はレバーをガチャガチャと回す。並ぶボタンを指先で連打した。直後に拘束が解けた。起き上がることに成功した喜びは少女の快哉の叫びで消し飛んだ。
「この瞬間を待っていたんだ!」
 溜まったSPゲージの全てを一撃に注ぎ込む。ゴウギの左腕が赤銅色に燃え上がり、無防備な顎を捉えた。リュウジは真上に吹き飛び、画面から消えた。
 絶叫する声が降ってきて数秒後に地面に叩き付けられた。同時にゴウギは背を見せる。背中には『慈愛』の血文字が書かれていた。
 相手を苦しませないで一撃で葬る。ゴウギ流の慈愛に他ならない。
 完全にペースを握った少女は二連勝を収める。少年の扱うリュウジを圧倒した。
「やめだ、やめ! 対策なしで勝てる相手じゃない!」
 捨て鉢な台詞で少年は立ち上がった。大股で筐体を回り込む。少女は笑みを浮かべて悠然と立ち上がる。スカートの裾を摘まんで広げて見せた。結果を御笑覧くださいと言わんばかりの態度に少年は仰け反って叫んだ。
「クソオオ!」
「それは小学生の時のあんたでしょ」
「クッソオオオオオ!!」
 麗らかな日和に恵まれたゲームセンターに少年の悲痛な叫びが虚しく繰り返された。