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どんなに叩かれても凹まない精神に敬意を表して。ちょっと即興書かせていただきますね。

僕は父とSFが嫌いだ。これには宇宙の彼方にある、ソラリスという星が関わっている。
ソラリスには海があって、生き物が海月みたいぷかぷか浮いている。いや、生き物というのは失礼だな。
彼らは立派な知的生命体だ。重力操作ができるくらいの科学力があるし、塩基生物といって、
海の塩分を栄養としながら生きている。
あまり知る人がいない事実だけどね。僕も16歳になるまでは、そんな真実とは縁遠い生活を送って
いた。

8歳の頃、親が脱サラをしてさ。西川口のマンションを売り払って、熱海の岬に近い古民家を一軒買った。
そのまま引っ越して、改築を始めたんだ。
梁の見えている天井を眺める形で、ホコリだらけの民家の隅に寝袋を並べて皆で寝たりしていた。
母は口では色々文句を言っていし、
たまにこの件で父を大喧嘩をしたけど、楽しんでいたんじゃないかな。
僕も楽しかった。キャンプみたいで。

古民家はどんどん小奇麗になっていって、父の目標とする形に近づいていった。彼の目標、それは
『ペンション大瀧』の創業。
地元の漁師さんに弟子入りして、魚の獲りかたを覚えて、宿泊客に地魚を振舞うという夢が
父にはあった。変哲のない夢だけど、
父は楽しそうだったから、僕は反対をしなかった。

海も嫌いじゃなかったからね。夜の波の音は子守唄のように聴こえた。晴れた日の海は波全体が光を孕んで、目に痛いくらい煌いていた。
そんな日は、僕はよく浜に下りて、汀で波と追いかけっこをしたりした。カナヅチだったから泳げなかったのが残念だけどね。

ある夏の晩の事だ。父と母が大喧嘩をした。理由は分からないけれど、生活費とかそういう事だったと思う。僕は悲しくなってさっさと寝袋に入って寝ちゃったんだけど、
早く寝たせいか夜中に目が覚めてね。トイレに行った。用を済ませても何となく寝袋には戻りたくなくて、こっそり家を抜け出して浜に下りたんだ。

砂に腰を下ろしてオリオン座を見上げていたら、三つのうちの真ん中が点滅して、いや、またたくとかじないんだ。光が消えてはまた点いてを繰り返して、
最後は真っ黒になった。僕はびっくりして、父を起こしに行こうとした途端、浜が弾けた。砂、岬を形作る岩石、小石、海水、潮を含む大気、
そういったあらゆるものが、吹き飛んだ。砲弾が当たるとああなるのかな。僕は訳も分からずに、両腕で
顔をかばったんだけど、
無事で済むわけが無い。と、思うだろう? 実際は手のひらを小さく切っただけだった。普通はあり得ないけどね。もっとあり得ない事が起きていたんだ。
弾けた砂、岩石、小石、海水、その場で爆散していた全てが、ぴたりと停止していた。時が止まったみたいだったけど、実際はものすごくゆっくりと動いている感じでさ。

僕はわけもわからずに、空中で月光に煌いている海水の雫を、指先でつついたりしたんだけど、やっぱり気になるのが爆発の中心部だ。

多分オリオン座から何かが飛来して浜に衝突。それから全てが停止している。僕は闇に目を凝らした。
手から血が流れていたけれど、それどころではなかった。

爆発の中心には、ラピスラズリ、星空みたいな深い藍色の影があった。海月みたいな形をしていてね。
大きさは8歳の僕と同じくらい。
子どもサイズの海月はかなり大きい。その海月がむくむくと膨らんでね。停止した小石、岩石の破片、色んな爆散物の中、僕は怖くて叫びそうになった。