車を買った友人が俺のアパートへやってきた。
 偶然通りかかった中古車販売店で目が釘付け、なけなしの貯金をはたいて買ったという。
 コスモとかいう車で、1995年式、なんと20年以上前の車だ。
 真っ赤なボディカラーで何とも平べったく、魚のエイに似ていた。
 俺がシートベルトを締めると友人はエンジンを掛けた。低音が効いた排気音が響き、ちょっと走り屋っぽい感じがして気恥ずかしくなる。
 綺麗な月が浮かぶ熱帯夜、とりあえず海へ行くことになった。
「うわっ、速ぇ!」
「凄いだろ、これスリーロータリーってレアエンジン付いてて物凄く速いんだ。いっかい全開で走ったらビビって、無闇にそれやるの止めようって思ったよ」
 海沿いの道路に来る頃には、交通量はほとんど無くなっていた。
「コンビニ寄ってくか」
 道沿いにポツンとあるコンビニへ車を入れる。
「行かないの?」
「別に買うもんないし、待ってるよ」
 ひとりコンビニへ向かう友人の背中を見送る。
 ラジオからはミュージシャンのトークが流れ、気怠い夏の夜を小さく賑わせていた。
 突然エンジンが止まり、ラジオの音が消える。