「ええ、長年の課題がやっと解けましたよ。
如何でしょうか、此処が古の伝説に倣う時知らずの庭です」
アサガオは原種に近い青から、江戸の清華である変わり咲きまで、全てのツルが満開に。
ヒガンバナとスイセンが紅白の対比をなすその上より、ソメイヨシノの花びらがヒラヒラと舞い落ちている。
サツキとツツジが咲き誇る垣根の下、シクラメンの火を灯すような花が揺れる。
星のようなジャガイモや、紅くアサガオに似たサツマイモなど、普段はなかなか見る機会の無い野菜の花まである。
穏やかな陽気にありとあらゆる季節の花を詰め込んだ花畑の中、スーツ姿の男性は酷く場違いに見えた。
「写真撮ります?」
驚愕しつつも辺りを見回す彼に、外部から声がかけられる。
「是非ともお願いします!」
鼻息を荒くするスーツ姿の男性とは対照的に、カジュアルな格好をした初老の男性はのんびりと答えた。
「いやあ、なかなか大変でしたけど、ここまで驚いて頂けたら光栄です」
「確か予言されていたのは70年前でしたっけ」
「ええ。発見は最近です。しかも実用化までがまた大変でした。
その上花咲じいさんのように一瞬で開花とはいきませんからね」
「正式なプレスリリースが楽しみです」
「私もです。先人たちが積み上げてきた花成制御の歴史……フロリゲンで本当に報われました」
初老の男性はどこか遠くを見ながら、目元をそっと抑えたようだった。