サミクラウスというビールがある。世界で一番アルコール度数が高いのだという。ビールには珍しく瓶内熟成をし、五年の歳月を数えた頃が飲み頃であるらしい。
酒に意地汚い私もまだこの酒には手をつけないでいる。
 この酒を私にくれた男はもうこの世にはいない。かつてバンドを組み、ともに夢を追いかけていたメンバーだ。
彼はベースを担当し、私はドラマーとして曲をリズムから支えてきた。
 彼は大学の後輩で歳は私より二つほど若かった。同じ音楽サークルに所属し入学当初から腕ききのベーシストとして認められていた。
ただ性格は偏屈で、才のあるものが時おりみせる人を寄せ付けぬオーラを、彼もまた纏っていた。
話をしているとたまに見下されている感じを覚えると、同級はこぼしていた。
 当時、私はといえば、がさつを絵にしたような男で、ずかずかと土足でひとのこころに入ってゆくような性格であった。
思ったことをそのまま口にし、代わりに他人に対してもデリカシーを求めなかった。
ひとを寄せ付けぬ孤高に対しても例外はなく、私は彼が望む望まぬ関係なしに彼との距離を縮め、気がつけばサークルの中で一番気の置けない仲になっていた。
後輩であるにもかかわらず、飲みに行くときは真っ先に顔が思い浮かぶような存在であった。
 事情で大学を辞めざる得なくなり、私はとあるプロドラマーのローディーとしてライブに帯同しつつ、アルバイトをして生計を立てるという日々を送っていた。
何となく始めたドラムスという楽器であったが、その楽器を以って飯を食うという夢を追うまでに私のなかで存在を大きくしていた。
学生でなくなった私は時間に追われ、大学の友人と遊ぶこともなくなった。
自分で稼ぎ、なおかつ夢を追い努力を続ける。その苦しさが自分のなかにプライドのようなものを育て、自然彼らとも疎遠になっていった。妬みもあったかもしれない。
 そんな生活を二年ほど過ごしたころ、私はある有望なインディーズバンドがリズムセクションを探しているとの情報を得た。
知人を介してオーディションを経て晴れてバンドの一員となった私は、メンバーから良いベーシストはいないかと問われた。
ベースが加わればすぐにでも活動ができる。私は真っ先に後輩である彼の顔を思い浮かべた。

途中まで。さすがに仕事に戻らないとまずい!
また後で書きます!