なんとか書けたー!

使用お題 『伝説』『五七五』『呂律の回らない酔っ払いが登場する』『出不精』『柳眉』

【過ぎ去ったブーム】

 伝説の五七五使いと呼ばれた大物も今は昔のものである。

 五七五と言えば俳句や川柳が思いつくだろう。かつて一世風靡したその流行も今や見る影もない。

「今はもう かつての伝説 出不精に」
「なんでぇ!? おめぇ、おえにけんかうっえんのかよ!?」

 かつて俺の父親は数年前に大流行した川柳ブームでは伝説とまで言われていたが、今やその見る影もない。ただのアル中の酔っ払いである。
 ついイラッとして五七五風に嫌味を言ってみたが、酔っ払いにそんな事を言うだけ無駄だろう。

「親父、いい加減にあの頃の事は忘れろ。ブームなんて過ぎてしまえばこんなもんだ」
「うっえぇ! おえは、まだあれるんだおぉ!」
「お父さん、いい加減にしてよ! せっかく私がプロポーズされたのにお父さんがそんなんじゃ、挨拶も出来ないじゃない!」

 俺の妹が柳眉を逆立てながら、親父に食ってかかる。妹の気持ちはよく分かる。折角の晴れ舞台のチャンスなのに父親がこのざまではうまく行くものもうまく行かなくなってしまう。

 大ブームの時に親父は大金を得た事がそもそもの間違いだったのかもしれない。川柳のプロとしてサラリーマンをやめてしまった親父は、相当な財を得た。それも今や出不精になる原因でしかない。
 一生何もせずに生活できるほどの大金は得ているのだ。それは親父の努力の成果ではあるから否定する気もない。ただ、ブームは過ぎてかつての伝説とまで呼ばれた栄光に未だにしがみつくのをやめて欲しいだけなのだ。

 いや、親父も本心では気付いているのだろう。だけどそれを認めたくなくて、酒に逃げてしまっている。下手すればこのまま家庭崩壊してしまうかもしれない。

「あのーすみません!」
「あ、はーい。って裕二さん? なんで家に!?」
「急に来てごめんね、美咲さん。親父さんの話を聞いちゃってね」
「!? そんな……」

 訪ねて来たのは妹の美咲にプロポーズした裕二という男だ。俺も何度か会ったことがあるが好印象で良い人だとは思う。

「親父さんと話しさせてくれないかな?」
「……それは」
「大丈夫、俺を信じて!」
「……うん、分かった」

 何か策があるようである。俺ら家族にはもう手に負えない。彼に任せてみるのもありかもしれないな。

「初めまして、娘さんとお付き合いさせていただいています、斉藤裕二と申します。私は実は新聞の編集部に勤めておりまして、伝説の五七五使いと呼ばれたお父様に一つご相談がありまして……」
「……なに? おひ! ひょっとみす持ってこひ!」
「へいへい」

 とりあえず目の色が変わった親父の酔い覚ましの水を用意しに行くことにする。さてどうなる事やら。



 後日、とある新聞にて新コーナーが始まった。
 その内容は読者投稿型の川柳を扱ったものである。そしてその審査員には伝説の五七五使いが行う事となった。それが決まってからは親父はすっぱりと酒を止め、妹も無事に結婚する事が出来たのだった。