使用したお題:『気持ち悪い』『グッバイ』『英単語三文字の略語』

【幼馴染、気持ち悪い】

 私の幼馴染は気持ち悪い。

 顔は良いと思う。成績も抜群だ。人望もある。ちょっとヘタレなところがあるが、人柄も悪くない。
 でも気持ち悪い。

 私の朝は比較的ランダムだ。たまに用事があって早く出ることもあるし、寝坊して遅れることも頻繁にある。
 だというのにこの幼馴染は必ず私の家から出た少し先の場所に待っている。
 そして私の顔を見るなり、二本指を額に当ててウィンクをしながら爽やかに一言。

「や、今日も良い天気だね。君の気分はどうだい?」

 気持ち悪い。

 不本意ながら一緒に登校して別れる時、または同じく待ち伏せされて不本意に一緒に下校して家の前で別れる時、
幼馴染は同じように二本指を額に当てて爽やかに一言。ウィンクもパチリ。

「グッバイ、また明日ね」

 気持ち悪い。

 私が一人で学校の教室を掃除している時もそうだ。どこからともなく幼馴染が現れて、私の手から雑巾を華麗に奪い取り、ポーズを決める。

「綺麗な君にこんな汚いことは似合わないよ。僕に任せたまえ」

 気持ち悪い。

 購買に向かおうとしている時が一番酷い。汚れた筆記用具や代わりの教科書を買いに行く時、彼は即座に私の前に現れる。
 クルクル回りながら現れて、顔や服が汚れたまま爽やかスマイルを決める。

「IBKだよ。さあ、一緒に購買に向かおうか」

 ちなみにIBKは『いつでも僕は君の側に』の略らしい。気持ち悪い。

 あの幼馴染は、社会通念上のルールを犯すことも厭わないのだ。私が女子トイレの個室に入っていると、奴はトイレにまで入ってくるのだ。
 ノックの音が二つして、ドアの上からタオルが投げ入れられてきて、こう一言。

「人のいないところで泣くのもいいけど、どうせなら僕の胸の中で泣いてもいいんだよ?」

 気持ち悪い。

 放課後の教室に呼び出されたこともある。そこには幼馴染と、私の良く知る人たちがいた。
 彼は珍しく無表情で、彼女たちにこう告げた。

「今まで見過ごしていたけれど、すでに証拠は十分揃った。これ以上彼女を傷つけるというのならば、相応の報復を覚悟しておくれ。なんせ彼女は僕の物だからね」

 気持ち、悪い。

 いつもの帰り道、いつものように幼馴染と一緒に家に帰った。何事もなかったかのようにくだらない話をしてくる彼の後ろに、無言でついていく。
 家の前まで見送ってから、幼馴染はいつもの寒いポーズとウィンクをした。

「グッバイ、また明日ね」

 気持ち悪い。

 でも一番気持ち悪いのは、正直になれない自分のことなんじゃないか、とそんなことを考えながら、
幼馴染の今日の突拍子のない言動を思い出して、自室で一人鼻をすすりながらクスクスと笑っていた。