【神算鬼謀】(2/2)


「当時、まだ30代だった将軍は、野心に溢れていたさ、『自分ならもっと上手くかじ取りが出来る』とね」
「だが、実際は同じ様に圧政を敷き、こうして引き摺り下ろされている」
「人間だれしも、自分の姿は良く見えないものだよ? あぁ、探偵殿、貴方は違うようだがね」
「そっくりお返ししよう、怪盗紳士。僕は君以上に怪盗らしい怪盗を知らない」

 探偵の頼んだ珈琲が届き、二人は無言でそれぞれの飲み物を喫った。

「幼い、少女が居た」
「うん?」
「利発で聡明、そして心優しい少女だった……」
「……成程、その為か」
「……」

 紳士は応えず、探偵は続ける。

「新王女がクーデター時に匿われていたのは、公爵家に連なる市井の夫婦だったそうだね?」
「そう聞いている」
「しかし僕の調べでは、あの公爵に親類縁者などいない……巧妙に隠されていたけどね」
「それは、不思議な事だね」

 紳士が肩を竦める。

「タイミングが良すぎるとは思わないか? 将軍の醜聞が明るみに出るタイミングにしろ、王女が発見されるタイミングにしろ……」
「そうかな? 歴史が動く時は一気に動き出す物だろう?」

 探偵……鉄雄の目が細められる。

「将軍の隠し財産、その内、美術品数点が今も行方不明だそうだ」
「……管理が杜撰だったんだろうね? 肥えた豚は、自らの厩舎を掃除などしないものだ」

 紳士が会計を頼み、席を立つ。

「お前は、何処まで見通している?」
「さぁ、私に判るのは、人の欲望だけだよ」

 鉄雄が椅子に座り直し、珈琲を口にする。

「姫さんからの伝言だ『ジョアン叔父さんによろしく』とさ」
「……彼女は、良い女王に成るよ」