>>553
使用お題:『水着』『パニック』『電車』

【気が付けば終着駅】


「くああぁ〜……」

 大きな欠伸を一つする。夜更かしをし過ぎたせいで眠いが、ゲームを止められなかった自分の自業自得なので文句も言えない。
 正直、会社になど行きたくは無いが、日々の生活を行う為には稼がなければならないので、俺は仕方なしにいつもの電車に乗った。
 快速でも急行でも準急でも無く各停に。座れるからと言う理由だけでそれに乗っているのだが、朝から疲れたくないのだから仕方ない。
 最寄り駅から2駅目が乗換駅の為、結構な人が乗って来る。
 俺は、それを座ったままぼんやりと見ていた。

 スイマーが居た。水中眼鏡とブーメランパンツの水着姿の……

 俺はあまりの事に思わず目を逸らした。
 周囲を伺うが、気が付いていないのか、回りの人間がパニックを起こす様子はない。
 本当に? こんな狭い車内でこれだけ人がいて、俺以外気が付いていない等あり得るのか?
 もしかしたら自分以外の人間には見えていないのか?
 だとしたら、こいつは何なんだ?

 ガタン、と電車が揺れる。

 俺はゴクリと唾を飲み込み、視線を上げた。

 いる。

 見間違いじゃなかった。
 何故、誰も見向きをしないんだ?

 本当に……俺にしか見えていないのか?

 いや、違う。回りの人間は確かに避けている。ほぼ満員といって良い電車の中だ、アレに当たらないようにするには、避けるしかない。
 だったら、何故?

 ガタン、と、電車が揺れた。

 目が……合った? いや、気のせいだ、相変わらずアイツはそこに……

「!!」

 真正面から顔を覗き込まれ……いつ、動いた?
 顔を挟み込む様に押さえられる。視線が逸らせない。
 水中眼鏡の中の目と俺の目が…………
 いや、無い何もない。
 水中眼鏡の中には何もない。
 俺は……

 スイマーがニヤリと笑った。