使用お題:アトラクション
【魅力のあるもの】
「あら、あなた、こんなもの前からあったかしら?」
「うーん、いや、見たことないかなあ」
 ある子連れの夫婦がいた。
 彼らはいつものように周囲を散策していると、ふと目前に見慣れない赤い屋根の建物があるのに気づいた。以前まで見かけたことのない建物だった。随分と小さいが、なかなかおしゃれな装いである。
 彼ら親子は何かこの建物に興味を惹かれたようで、遠巻きに周囲を歩き回りながら観察していた。すると、子どもが何かに気付いたらしくその黒い瞳を輝かせながら言った。
「何かすごい良い匂いがするよ!」
 聞いて夫婦は示し合わせたように同時に鼻を効かせる。そして頷いた。なるほど確かになんとも言えない魅力的な香りが家屋の中より漂って来ている。
 父は少し感心した様子で言った。
「なんだろう、今まで嗅いだことのないようないい香りだ。……ははあ、さてはここはレストランという訳だな?」
 母は父の言葉に同意して、「まあ、それは良かったわ。ちょうどお腹も空いてきたことですし、今日はここでご飯にしちゃいましょう」と言うと父は頷く。
「そいつは名案だな。な、お前もそれがいいだろ?」
 聞くと子は喜びを全身で表現したのかあたりを跳ね回る。当然答えはイエスであり、夫婦はその姿を見て朗らかに笑っている。
「じゃあまずはオレが入って全員入れるかどうか聞いてくるよ」
 言って父は悠々と歩き赤い屋根の下に消えていく。母子はそれを見届けるとこれからありつけるであろう食事について話しながら父の帰りを待った。
 そしてそれからしばらくが経つ。なぜか父は戻ってこない。
「あら、何かあったのかしら。流石に遅いわね」
 そう言うと母は子に、ここを動かないように、と告げると建物の中に様子を伺いに行く。後には子どもだけがぽつねんと取り残されていた。
 またしばらく経つ。やはり母は帰ってこない。子どもはだんだんと不安になっていくのを感じた。
 なぜ父さんと母さんは帰ってこないのだろう。子どもは心細さを覚えながらも少し考える。
 そしてもう一度鼻を利かせ、相変わらず良い匂いが漂っているのを確認すると、ある考えが浮かんだ。
 ――そうだ! きっとあの中にはとても美味しい食べ物があって父さん母さんも思わず夢中になっちゃって帰ってこないんだ!
 そう考えれば合点がいく。そしてきっとそうに違いない、自分も早く仲間に入れてもらわなくっちゃ、と子どもは赤い建物へと足を進めた。親にほっとかれたと分かってムッとしない訳でもないが、それは仕方のないことだ、と子どもは思う。
 子どもは改めて目前にの赤い屋根の建物を見やった。
 だってこの建物は、なんていうかすっごい魅力的で、引き寄せられちゃうんだもん。とても良い匂いがする。
 子どもは心細く思っていたことなど忘れたように意気揚々と建物の中へと入っていく。
 そしてしばらく経ち、やはり子どもが出てくることはなかった。
 子どもが入った建物の屋根には文字が書かれていた。

 ごき◯りホイホイ、と。