「あいつはな、男の性欲を嫌がるような女じゃない。むしろ、利用するぐらいの奴だ」
「ゲホッゴホッ!」
「驚いたか?」
「ゲホッ! そうじゃない、噎せたんだ。この梅雨の天気で体調が悪いんだ」
「そうか。あいつは狡猾だ。性欲を利用して意中の相手と関係を作ってしまうぐらいはやる」
「本当に?」
「ああ。あいつとの付き合いは長い。俺は解っているつもりだ」
「じゃあ、どうするつもりだ?」
「今からあいつの家に行く。そして気持を伝える。もはや猶予はない。できるか?」
「ゴホッゴホッ! ガハッ!」
「また噎せたか?」
「ゴホッ! お前、今日はあいつから連絡があった日じゃないか」
「だからどうした?」
「いや、だから、ええと……」
 俺はライン(スマホのアプリ)を確認した。
「今日は愛子が『今日はデートだから連絡してこないで。家にも来ちゃダメだし、私に迷惑をかけないでね』と言ってきた日だ。その日に愛子の家に行くのか?」
「そうだ、もう時間がない。お前は潔く玉砕でもしろ」
 斎藤の目が鋭く光った……ような気がした。
「なぜ俺がそんなことを言うかわかるか?」
「え? ええと……解らない。何も」
「実はな、俺もあいつに気がある。今でも狙っている」
「ゲホッ! ゴホッ! ちょ、ちょっと待てよ。今まで長い友達付き合いで、お前がそうだってこと、一度も言ってなかった……ゴホッ!」
 そこで俺は、メロンソーダを飲むことを諦めた。俺は甘いものが好きだ。紅茶だのコーヒーだの苦いものを飲んでいる奴は馬鹿だ。斉藤は言った。
「あんな美人に惚れない奴などいるわけがない。俺も例外ではないんだ」
「……それなら、なぜ俺を応援する?」
「なぜお前の恋の手伝いをするか? 言っただろう。お前が玉砕したら俺の番だ。この際はっきりすることだな」
「お前、いい奴だな。小説の中の登場人物みたいだ」
「そう褒めるな。俺のクーペに乗れ。早くそのアイスを食ってしまえ。見ているだけで気持悪い」

 愛子の家は、車で三十分。方向音痴の俺は、車があってもとても辿り着けないだろう。
 あれ? ちょっと待てよ。
「おい」
「なんだ?」
「愛子、今家にいるのか?」
「いる。ラインを送ったら、怒りつつも『家にいるよー』と返事が返ってきたからな。彼氏と一緒らしい。あいつが疵物になるのを、何としても阻止せねばならん」
「よし、もっとスピード出せ! もうどうでもいいから! どうなっても構わねえ」
「よしきた。『お前のことが好きだ。結婚してくれ』これで行け」
「わかった」
 十五分後。二人とも合鍵はある。インターホンを押さず、いきなり扉を開けた。
「愛子!」
 暫くして居間と玄関を繋ぐ廊下に、愛子が出てきた。
「あれー? どうしたの君達」
「愛子! す、好きだ! 結婚してくれ!」
「もしこいつより俺のことが好きなら、俺と結婚してほしい。そんな、どこの馬の骨かわからん奴じゃなくて」
 後ろから彼氏が出てきた。
「愛子は俺の女だ」
 斉藤は動じない
「愛子、そいつに自己紹介しろ」
「ええ? ええと……私のこと? 私は普通の女の子みたいに、羞恥心なんかないんだー。だから、おっぱい見せられるよ。ほら。おまんこはね、エロマンガみたいに綺麗じゃないから、見せないけどね」
 そう言いながら、愛子は上半身に身に付けているものを全て脱いだ。
 彼氏は無言で出て行った。やってらんねえよ、という捨て台詞を残して。