お題:『配管工』『ユニオニオン』『誰かが冗談を言う』『ドラムンベース』
全選択のつもりだけど、ローファンタジーかどうかは自信がない
【ユニオンリンク】1/2
会議室に並べられた料理がオフィスに似つかわしくない香りを漂わせていた。
壁の一面はガラス張りで隣接フロアを見渡せるようになっており、これまた場違いな一面の緑が整然と広がっている。
外観はオフィスビルのままであったが中身は随分と様変わりしたものだ。
「一般の見学者を呼び込むのもアリです。科学館よろしく演出を凝らせば――」
担当の男は落ち着かない様子で眼鏡を上げ、こちらを窺う。
「――下層には養殖用の水槽がありまして、水耕栽培と循環連動してまして。将来的にはレストランも併設して、ここで生産した野菜と魚を提供するコンセプトです。お味はどうです?異国の方の口にも合うでしょうか?」
こいつらの顔はどうも好きになれん。不機嫌面で睨んでやろうかとよぎったが、ここは話を持ってきたジャックの顔を立てることにした。
「植物工場にレストランか。まぁ、廃ビルにしておくよりかはマシでしょうな」
土地の少ないサルどもらしい発想だ。まったく妙な知恵だけは働く。
「おいおいマックス、俺が目をつけたビジネスにケチ付けないでくれよ。お前はどうも排他的っつーか差別的でいけねえや。面白い試みじゃないか?なんなら地下に温泉でもつけたらいい。ハハハ! おっ このフライもいけるぜ?」
「……これも野菜か? 初めて食べる味だが」
「それは、えーオニオンですね。球根を輪状にスライスして、揚げて、オニオンリングって訳です、はい」
得体の知れないリングを注視する私を見て、料理を気にいったとみたのか緊張の色が薄らいだようだ。
「まずまずだな……時間もない。残りのフロアも見せてもらおうか」
階下の栽培エリアは、いかにも工場然としたパイプが張り巡らされ、温かみのない照明が緑を照らしていた。
「太陽と土がなくても問題ありません。人工光と水の徹底した管理により、味はもちろん栄養素の調整も可能です」
無農薬を謳っているようだが、この嗅ぎ慣れない匂いは薬品のようではないか?オニオンの香りか? だがそれよりも――
「このBGMは見学ツアーの演出か?もう少し落ち着いたものにはできんのかね?」
「ああ、音楽を聞かせているんです。植物に。研究成果も出ていましてね、オカルトじゃありませんよ。ちなみに今流れているのはいわゆるドラムンベースといいまして」
「ハハハ、いいじゃないか。俺は好きだぜ。若者ウケもいいんじゃないか?」
ジャックの興味はガラス越しのオニオンプラントに移っていたが、体の一部は自然とリズムにのって左右に揺れていた。本能には抗えん、か。
その後いくつかのプラントを見廻り、視察は完了した。水槽は配管メンテのため立ち入れず、ジャックは残念そうな顔をしていた。
「このモデル工場を足がかりとして各地に展開するにあたり、もちろんお二方に所縁のある企業様に配慮する所存でございます。が、先に申し上げたとおり配管工事だけは我々の方で手配させていただきたく」
「技術立国だもんなぁ。譲れんところは構わんよ。なぁマックス?」
「では当初の取り決め通りということで。本日はありがとうございました。こちら、お土産です。お気に召されたようでしたから……」
「ほう、オニオンチップス? こいつもうまそうだな! いや〜有意義な視察だった」
狭苦しい島国で、ちょっとした食の楽しみができる程度には。そう思いつつエントランスを出た。
ジャックが消息を絶ったのはその1ヶ月後だ。