>>191
倫理的な問題、および残酷そうな(?)表現があります。

お題:『線香花火』『おっさん』『空軍』『キャプテンTOBBY』『イケメン』

 太平洋上の高度8,000メートル上空を時速750kmで飛行する七機の航空機があった。
 護衛としての四機はよく見慣れた双発と単発の戦闘機だが、一機は中型旅客機ほどの随伴機、一機は大型旅客機を思わせる空中給油機で、残りの一機は尾翼を一切持たない全幅30メートル程の白い全翼機である。
 空中給油機の後部下から伸びるホースが全翼機の中央部分にある給油口へと差し込まれ、燃料を受け取っている最中だ。

 随伴機に乗り込んでいる技術者たちは、空軍の協力のもとに行われている実験のための全翼機を眺めている。

「このあたりは順調だな」

 おっさん技術者は試験の一つである自動給油がうまくいっていることに満足顔だ。

 この全翼機は風防がないどころか、その部分がエアインテークになっている。
 UAVやドローンと呼ばれる無人航空機だからだ。
 風防があって然るべき場所には申し訳ない程度にパイロットの絵が描かれることがあるが、この全翼機にはキャプテンT○BBYが描かれていた。

 もっともこの全翼機は、完全な無人機というわけではない。
 五人ほどが同乗している。いや、五人相当だと言うべきだろうか。
 そもそも脳を残して肉体を無くした者たちなのだから。
 そしてパイロットとしてではなく同乗しているというのも理由がある。

 飛行制御や攻撃判断などはすべて人工知能が担当する。
 ならばこの五人の脳が行うのは何か。
 それはただ、人工知能の戦闘機動について良かったか良くなかったか逐次評価するためにある。

 人間はどれほど鍛えてもプラス9G、逆立ち状態となるマイナス方向では3Gを短時間で耐えられるのが限界だと言われている。
 つまり、人間が乗っていなければそれを超えた機動を行うことが出来ることになる。
 だが即時に行動を評価するためには人間の搭乗が必要となり、そのために必要な機動が出来なくなるのではどうにもならない。
 死刑制度が無くなったのに合わせて、代わりとなる刑罰の整備が行われたのは丁度よかった。

 元々は重犯罪者であり、社会復帰は不可能とされた者たちだ。
 そんな彼らをタダで養う事など、とても認められるはずがない。
 結果、脳を取り出され、チョロっと教育・訓練を施して戦闘機に積み込まれることとなった。

 彼らの脳は互いに孤立しており、他者とのやり取りは一切行えない。
 あまりにずれた評価をするとお仕置きが待っているため、従順な彼らはそれなりに価値のある評価を下すようになっている。

 給油が終わるときに無人機が姿勢を崩した。その拍子に外れたホースの先端から出火すると、線香花火のように火玉が出来て火花を飛ばす。
 幸いすぐに消火剤が散布され、それ以上の被害にはならなかった。

『現刻をもって試験を中止。全機基地へと帰投せよ。繰り返す、…………』

「重大インシデントですね」

 随伴機に乗るイケメンの技術者は手元のボードに発生状況と今現在考えられる原因を書き記していった。

 そんな状況の中、全翼機はいつの間にか少しずつ距離を取り、給油機をロックオンしていた。
 給油機の内部では甲高い電子音が鳴り響き、給油機のパイロットはすぐさま回避行動に移る。

 もっとも無人機に本物の空対空ミサイルを積んでいるわけでも、機関砲の弾丸が装填されているわけでもないため、攻撃を受けるわけではない。

 攻撃できないことで人工知能がパニックが起こしているうちに、護衛する四機により撃墜されて海の藻屑となった。

 後日、海中から回収されたフライトレコーダにより、囚人たちによる恫喝によって人工知能が支配されていたと分析される。
 技術者たちは次の人工知能の自我を強く、そして自己判断を優先させるように組み替えた。

〈おしまい〉